もう食べたくない

 

  本当なら小さなかけらを一口ずつ口にいれて、ゆっくりと嚙みくだいて、何度も反芻をして、そうしないと消化できない。現実のあれこれはそんな類のものだ、私にとっては。美味しいものなら名残惜しむように味わって舌の上で転がしたいし、苦いものは他の美味しいものとからめて調理したい。そうして自分が食べたいタイミングで、飲み込めるようになるまで噛み続けていたい。吐き出してしまっても、また飲み込めるようになるまでは休憩したい。

  それなのに、次々と超速のベルトコンベアーで流れてきた大小さまざまな美味しくないものが、フォークで目先に突き出され、ほら食べろ、いいから食べろ、次がつかえてる。味わう余裕も消化しやすいように噛む余裕もない。ただ飲み込む。お腹がいっぱいでも、苦しくても飲み込む。吐いてしまったら、その分多く食べなくてはならない。休憩なんてしたものなら、目の前にはどんどん溜まっていく塊の山。こんなの一気に食べられるはずないのに。でもまた手を止めたら溢れ切って他の人の皿を邪魔してしまう。止まらないベルトコンベアー。苦いのに水を飲むことさえ許されない。口にできうるだけ詰め込んで、詰め込んで、飲み込めなくても次がきたら詰め込んで、そうしたらいつかついに窒息してしまう。窒息したら、この山はどうなるの?