自由が丘で 観た


最近、加瀬亮さんにハマっているので、
彼が絶賛していた現場だった「自由が丘で」に興味が湧いて、アマゾンプライムでレンタルして観た。もう7年前の作品だ。

結論から言うと、拍子抜けするくらいすきな映画だった。めちゃくちゃな感動があるわけでもないし、大笑いできるわけでもないけど、何度観てもおもしろいと思う。

この映画の一番の見どころというと、やっぱりそれは時系列がバラバラに編集してあることだろう。賛否両論あるだろうこれ、私はなんの違和感も不自然さもなく、すんなりと受け入れてみることができた。そもそもそんなに長い映画じゃないし、起こる出来事も複雑でもなければ多くもないので頭のなかで勝手につなぎ合わせて理解できてしまう(これがモリのいう人類の脳みその進化なのか)。むしろ、次に起こることがなんなのか予想して怖くなったり興醒めしたりすることが多い身としては、こういうまったく予想がつかない展開は予期の放棄に近くて、なんなら観やすいくらいに感じた。この話が時系列通りに進む作品だったらもう少し退屈だったと思う。
私にとって一番印象的だったのは、登場する人々がものすごく自然で、リアルな人間だったところ。たとえば、主人公のモリははじめ親切でわりと知的な印象だし、そして、日本人らしくないとも言えるほどハッキリ自己主張したり、怒りをあらわにするので、自立した大人な男性に見える。そうかと思えば、酔っ払って初対面の人にだる絡みしたり、良い感じになったカフェの女性と流されて一晩共にしたりする。そんなふうに、観てるほうからしたら若干イラつくほど人間らしく良いところも悪いところも映される。それは他の登場人物も同じで、仲良くなった韓国人のおじさんもモリにとっては良い友達だけど、若い女の子ナンパみたいなことして逆ギレしてるし。みんな使ってる英語はカタコトで(これはわざと母国語に近づけて発音していたらしい)、大袈裟な表情もなく、大抵ぎこちない。全員が偽善的でもなく、露悪的でもない。強いて言うならカフェの女性の彼氏は最悪人間だったけど、こういう男性本気で存在してるからな。本当にモリが韓国へ出かけたときの話をお酒を飲みながら聞いているような(思いついたところから話すから、行ったり来たりするような)、そんな感覚をおぼえた。
ストーリーとしては、ドラマチックでもフィクション的でもない、何にも起こらない話だ。それでもモリには日々何かしらがあって、それを観ていると退屈しない。結局モリはクウォンと会えるのかという点はドラマチックというほどでもないけれどたしかに気になるから、集中が途切れることもなかった。景色は常にうつくしいし、会話のない場面も観ていて飽きない。加瀬さんは基本だるだるのTシャツにだるだるのパンツというスタイルなのに歩き回ってタバコを吸う姿だけで様になるから不思議だ。
映画はあまり観ないから、カメラワークとか照明とかそういう難しいことはよくわからないんだけど、たしかに全然カメラが移動しないなとは思った。酔わないからありがたかった。謎のズームに関しては理解不能すぎてウケてしまった。でも、人間ふと注視するところなんて特に意味はないので、そんなもんなのかもしれないと思ってそこまで嫌ではなかった。ウケたけど。
ラストだけは、少し混乱した。モリが日本へ帰国した後にまた時系列が戻るのだけれど、モリが目を覚ますところからで、え?!クウォンと会えたのって夢オチなの?!とビビりまくってラストを何度も観かえしてしまった。たぶん、一枚だけ落としたままの手紙は、カフェの女性のいけすかない彼氏と殴り合いするところで、だから飛んでるんだと思うんだけど。きっと映画なら一番盛り上がるような場面なのに、わざわざそこを切り取ってしまうところがすきだな。

まとめると、すごくかわいくてなんてことはないけれどおもしろい映画だった。私は特に好きなタイプだ。ホンサンス監督の映画はまったく観たことがなかったので、これを機に他の作品も観てみたいなと思った。加瀬亮が観たい人も、単に映画を観たい人も、ホン・サンス監督が好きな人も、みんな楽しめるとおもう。




以下、観ていたときのなんとなくの感想

・韓国のゲストハウスって部屋に鍵ないの?防犯的にどうなの?
・ゲストハウスの部屋の中にはカメラがいかないのはどうしてだろう。部屋の中での出来事は手紙には書かないからかなあ。扉がピシャリと閉まると中が気になる。
・モリは韓国語話せないくせにどうやって語学学校で働いてたんだよ。
・ゲストハウスのおばさんとの話は興味深かったし、モリの言う通りだと思う。
・序盤、クウォンは咳き込んで手紙落としたりしてたけどほんとに身体は治ったのか?やっぱり夢オチじゃないよね?
・犬の名前クミが夢って意味なのも不穏すぎて嫌なんですけど。
・酔っ払って空気読まずに若干初対面の人に引かれてる感じ、現実で見たことあるやつすぎて悲しくなった。酒やめな。
・なかよしになったおっさん、これまた現実でよく見る若い子に声かけるけど冷たくされて逆ギレしてるおっさんで悲しい。現実見な。
・飯食った後の皿ズームは草。
・モリ、あんだけクウォン一筋感出しときながら手紙で呼び出されたら普通に行くの草。
・店に入って、キスするシーンが影でしか見えないのはすきだった。
・部屋の灯りだけが映ったとき、「エッッッヤッちゃったわけ?!?!!!」て度肝抜かれたわ モリ、ヤるなや。
・ていうかそこまでガッツリキスするとおもってないから。心臓とまるわ、と思ったらキスしてるとこズームされてドキドキが消えた。ウケるて。
・ピロートークでDo you love me?て訊かれてどうしよ……てなった挙句Yes.I love you でオイオイオイ………。
・意を決してほんとのこと言おうと部屋行くの草。部屋行ったらやるやん。って思ったら即落ちで草。当麻の声で馬鹿じゃね瀬文って聞こえたもん。
・トイレに閉じ込められるくだりめちゃくちゃおもろかった。モリのドア越しの声情けなすぎるし。一番の山場これかよてなった。さすがに全裸じゃなくてよかったねになったけど。
・別れ際、ちょうどカメラに映る側があざになってて、右利きの人が殴った感じになってるのはよかった。
・モリがクウォンの脱いだ靴に視線を注いだ後、ドア開けるところもドキドキした。
・最後のシーン、飯に誘われて酒飲み交わした翌朝だと思うんだけど、モリめちゃくちゃ自分からキレイだよとか言うやん。この後5時まで爆睡して睡眠が必要とかいうとこになるのかな。
・結局、夢オチなのか本当にモリとクウォンが出会えたのかめちゃくちゃ気になる……。けど、答え合わせを望むのは野暮なんだろうなあ。夢オチ示唆する要素もあるけど、逆にクウォンがカフェで話してるところとかも見ると、ほんとに会えたのかなって気もする。