独りで歩く


最近の父親と母親は一触即発状態が続いている。原因はわかり切っているけど2人がこのまま一緒にいても別れても完全な解決はないような問題で、それをなんとか細い糸を渡るような感覚で繋ぎ止めている。母親の機嫌をとるのも、父親の機嫌をとるのも、ストレスで情緒不安定になった母親の代わりに家事をするのも、母親の仕事を手伝うのも、父親の仕事を手伝うのも、すべて私と妹の仕事になった。
妹はがんばってくれている。妹なりに家事を手伝ってくれるし、母の気を紛らわせるのはやさしい妹の方が得意だ。私は家族4人が集まる場では矢継ぎ早に喋り倒し家族を笑わせることに終始している。
これまでずっと私を支え続けてくれた恋人は新社会人となり、慣れない仕事のせいでこれまた不安定になっている。毎朝毎晩、出勤する車の中で私に仕事の愚痴を話す彼を励まして褒めて笑わせる。彼の声を聴けるのはうれしいし、私のことも気を遣ってくれている。将来的に一緒に住むためにお金を貯めているよと言ってくれる。
私の就活はまったく順調ではなくて、不器用で頭の悪い私にはこなせないような量のタスクが山積みになって途方に暮れているうちに周りはみんな内定をもらっている。

就活がうまくいってないこととか、やることが常に溜まっていていっときも完全に寛ぐことができないこととか、喧嘩しそうな親を冗談を言ってはぐらかしていることとか、全部苦しい。経済的な不安も未来への不安も、母親の病気への心配も、自分の大切な人がみんなして苦しそうな顔をしていて無理やり私が笑わせることも全部怖い。

でも、今頑張らなきゃいけないのは絶対的に私で、今までずっと迷惑をかけて頼り切っていた分、私が背負わなきゃならないものはきっとすごく大きい。
こういう問題は外野には何も頼れることはなくて、妹はたくさん頼りになっても結局支柱にならなければならないのは私で、父親と母親のバランスを取れるのも私で、経済的にみんなを助けられるはずなのも私で、恋人を支えられるのも私で、絶対にちゃんと就職して一刻も早くお金を稼がなければならなくて。

泣いてはいけないし挫けてはいけないし止まれないのが怖くて仕方ない。苦しい。
私はお父さんのこともお母さんのことも妹のことも恋人のことも絶対に不幸にしたくない幸せにしたい。でもそれが重たくて重たくて折れそうで折れることが許されなくて怖い。怖い。一人で立つのは怖い。苦しい。

笑われながら泣きながら恋をする

 

鬼龍院翔の「Love Days」MVを見ていたら、自分がリアコしていたときのことが蘇ってきて気づいたら号泣してた。

 

 俳優のオタクをしてた頃、いま思えばリアコだった。当時、本気で気が狂ったかと思うほど好きで、好きすぎて公演の前アナで声を聞くだけで号泣したり、彼のブログのコメントに長文ポエムを書いてオタクの掲示板に悪口を書かれたりしてた。いま思うとウケるけど、当時は真剣すぎて悪口を書かれて病んだりしてた。

他にも、彼の出身高校の制服をメルカリで買おうとしたり、彼の地元に旅行へ行こうとしたり、彼の地元の友人のツイッターをフォローしたりとにかく狂気エピソードは枚挙にいとまがない。ちなみにこれはストーキング行為なので良い子のみんなはやめてほしい。ていうか法には触れてないです私も。ギリギリなところで理性が保つのが私の悪い癖(?)で、やろうとしてやめたことは死ぬほどあるけど実行に移したものはあんまりない。

実際やってたことといえば、同担が嫌すぎて同担全員の顔を覚えるべく自撮りを晒していないか同担のアカウントをすべて確認したり、当時一番強かったオタクツートップとなぜか金のないただの芋高校生の私が仲良くしていたり。いま覚えば「なんでお前それできたんだよ」なことも多少はある。

とにかく彼のことしか考えられなかった。本気で結婚したかったよ。会話した内容くだらないことも全部覚えてるし、認知してもらって結構経った後たまに話しててくだけて関西弁になるのがうれしかった。好きすぎて、目の前にいられると気持ち悪くなるから目をそらしてばかりいて変な子扱いされてるのも知ってたけど。

 

 でもさ、これぜんぶ、ぜんぶ、一方通行だからほんとにきもいんだよね。少しラインを見誤ったら犯罪になっちゃうんだよね。リアコって恥ずかしい。リアコは身の程知らずで、脳内お花畑で、他のオタクに迷惑をかける、きしょいやつ。たぶん、オタクのなかではリアコに対する認識ってそういう感じで、それは間違ってない。

だって、みんなで力を合わせて応援して人気になってもらおうってなってんのに恋しちゃったらリアコは同担みんな嫌になっちゃうし、"観る側"のオタクが見られようとしたらやっぱり掟破りなんだよね。だから村八分にされる理由もわかる。

 

 ………それでも恋ってそういうもんだよね。そう思ってしまうのはリアコだったからなのか。身の程知ってる恋しか無いんだったらロミオとジュリエットなんて生まれない。恋したら近づきたい。触れ合いたい。双方向の感情がほしい。他人の迷惑なんて省みてたら、自分の恋は一生成就しない。脳みそは常に相手のことでいっぱいでそれをとりまく環境とか自分の立ち位置とか友だちのこととか一切合切抜け落ちちゃう。

恋ってそういうものだけど、リアコは哀しいかな、そういうこと全部がただのキモい女の戯言にしかならない。ロミオとジュリエットとはまた別の悲劇。ロミオとジュリエットがあんなに美しいのは相思相愛だからなのかもしれない。もしロミオがジュリエットに嫌がられてるのに一方通行で恋していて勝手に自殺してたら現代だったらキモメンヘラ扱いになるよ(一部には需要ありそうだけど)。

 近づきたいって思っても、オタクと舞台人っていう役割が明確に確立されてるところで出会っちゃったら、その役割から外れることってできなくて、外れようとすることはルール違反で。しかも舞台人のほうがルール違反して夢を捨ててまで恋をとることもないだろうし。そもそも、オタクってリアルから離れてカタルシスを得るためにオタクやってるみたいなところがあるのにそこでまたリアルに恋してたら可笑しいんだよね。滑稽。周囲から見たら滑稽なんだよねこれがまた。いや、絶対無理なのに何言っちゃってんの、ばかなの?って。近寄ろうとすんなよお前オタクなんだから。って。

でも、絶対無理なのは本人が一番わかってる。離れてたほうが幸せなのもわかってる。わかってるけど気持ちが止まらなくてコントロールがきかなくてさながら暴れ馬になって、周りにぶつかってぶつかって自分も周りも傷つけて、それでスピード落とすしか止まる方法がない。

しんどいね。笑われて、叶わなくて、苦しくて、諦めたくてもオタクっていう役割だけは残ってるから、関係は崩れない。自分からえんがちょってやんないと離れられないから、相当の理性があるか、暴れ馬になったときに犯罪をやらかすかしかないよね。

 

 やっぱり、リアコってしんどいね。でもそういう恋っていいなあと思ってしまう。どうしても。そういうときの女の子ってなんだかこころの芯にくるような言葉を吐くし、どろどろの傷がつくだけの恋も、立派な恋のひとつなんじゃないかと、Love DaysのMVを見ていて思ってるよ、私は。そんな意図で作られてるかわからないけど・・・・。あれリアコ経験者涙無くして見られないと思うけどな!

 

 盲目的でまともじゃなくて、人に笑われてしまうようなだっさださの好きでも、笑われながら、傷ついて泣きながら恋をしてほしいな。リアコじゃなくて現実で恋愛してる人たちも、みんなほんとはそうやってダサくなりながら好きになってるんだから。他のみんなみたく、他人から見たら滑稽な好きをうまく隠せないリアコオタクたちが、いとおしい。ださくて笑えるけどいとおしいと、思って泣けていたという話。 

 

 

 

とけない呪いがある

 

 とけない呪いがある。

たとえば、「育て方間違えた」、たとえば、「あんたにはなにもない」、たとえば、「もう話しかけないで」。

 

数えきれないくらいの呪いがある。でも私はそれを毎日ひとつひとつ数える。丁寧に数える。数えたくなくとも、頭の中に響く。それは唐突に。布団に入った瞬間、駅から家まで歩いているとき、お皿を洗うとき、友達と電話して笑ったあと、いつでも、頭の中に呪いがリフレインして私はもう二度と笑ってはいけないのに、と思う。でも世の中の人間は笑わない人間を罪人みたいにするから、無理やり笑ったりもする。呪いはいつでもやってくる。増えることはあるけれど減ることはないから、毎日数えると少しずつ少しずつ増えていく。でもそれを飲み込めないのは私のせいで、きっと世の中の人はそれを飲み込みながら笑ってるから、笑えない私は駄目な人間で、だから呪いも増えていくんだろう。わかっていても呪いはやってくる。

私は呪いにいつもこう答える。そうだね、その通りだねごめんなさいって。私はいつも自分を許せないでいる。けれど現実でやってることは正反対で、許しすぎているように見えるだろう。同じように苦しい人でもまともに生活できている人はいるから、だから私はまた呪いが増えていくんだろう。

これはほんと呪いじゃない。自業自得だから。自業自得だから、とけるのは私しかいなくて、でも私は産業廃棄物のような個体だから、いつまで経ってもそれを呪いにして、とかずに、言い訳に使っている。

呪いをとかない私をみんなが許さないのは当たり前だ。

もう食べたくない

 

  本当なら小さなかけらを一口ずつ口にいれて、ゆっくりと嚙みくだいて、何度も反芻をして、そうしないと消化できない。現実のあれこれはそんな類のものだ、私にとっては。美味しいものなら名残惜しむように味わって舌の上で転がしたいし、苦いものは他の美味しいものとからめて調理したい。そうして自分が食べたいタイミングで、飲み込めるようになるまで噛み続けていたい。吐き出してしまっても、また飲み込めるようになるまでは休憩したい。

  それなのに、次々と超速のベルトコンベアーで流れてきた大小さまざまな美味しくないものが、フォークで目先に突き出され、ほら食べろ、いいから食べろ、次がつかえてる。味わう余裕も消化しやすいように噛む余裕もない。ただ飲み込む。お腹がいっぱいでも、苦しくても飲み込む。吐いてしまったら、その分多く食べなくてはならない。休憩なんてしたものなら、目の前にはどんどん溜まっていく塊の山。こんなの一気に食べられるはずないのに。でもまた手を止めたら溢れ切って他の人の皿を邪魔してしまう。止まらないベルトコンベアー。苦いのに水を飲むことさえ許されない。口にできうるだけ詰め込んで、詰め込んで、飲み込めなくても次がきたら詰め込んで、そうしたらいつかついに窒息してしまう。窒息したら、この山はどうなるの?

夏がくるとかなしい

 

  毎日忙しすぎるのでなにかをまとまって考えることもなくなってきた。朝起きて学校に行って、予備校に行って、もう日付を超えている。さっさと風呂に入って寝たら、またその繰り返して、少ない休みは金を稼いで、あっという間に今年も半分が終わろうとしてる。夏の思い出っていうのはよくないとおもう。春より秋より冬より、夏のほうが忘れられなくなるからだ。雨が降ったり止んだり、いやな季節が早く過ぎてほしいのに、夏がきたらやっぱりかなしいから、やだね。

  神聖かまってちゃんのちばぎんが今年で脱退するらしい。10周年ライブで、いまが一番幸せって笑ってるのを直接見てたから、相当ショックだった。でも、理由を聞いて深く納得してしまったし、なにより、配信で娘さんの話をするちばぎんがしみじみ微笑んだり、なんだか知らない顔をしてるのを見てたら、責める気とか、残ってほしいなんて言葉をぶつける気を失ってしまう。だって一番続けたいのはちばぎんだとおもうから。今は夜勤で肉体労働をしながらバンド活動をしてるって。大人になるってのはやだねえ。綺麗なものの後ろにどんだけの苦しさがあるか知ってしまうから、素直に憧れられないよ。でも、この真っ暗を知ってるから、なおさら涙が出るのかも。知りたくないことばかり、チカチカ、液晶にうつって、吐きそうになったりいろいろ。 

  いまこんなに頑張れるなら、最初からやっとけよって話なんだけど、去年とか一昨年はほんとにどん底だから、思い返してもやっぱり無理だったっておもうし、後悔はしてても同じことを繰り返すとおもう。何度もオタクしてなかったらとか、なんでちゃんと学校に行けなかったんだろうとか、もっと別の大学だったらとか、サークル入ってなかったらとか、恋人と出会ってなかったらとか、なんどループするんだよって回数考える。しょうもないね。やっぱり些細なことで突き落とされちゃうから、心臓から血が流れるみたいに痛くなると、ぜんぶ忘れたいっておもう。雨上がりのコンクリのにおいとか、手のひらのあったかいとこも、くれた言葉も、うれしくて泣いたことも、これでもう充分っておもえたことすら、それも要らないからぜんぶ忘れたいって思っちゃう。馬鹿だね。馬鹿だねほんと。自分の汚さを知ってる。それだけで充分って言い聞かせてる。ひとつひとつこなしていくしかないことも知ってる。生きてくしかないことも知ってる。独りで。

  なにが好きとか、なにしてるとか、なにに成りたいとか、そんなに重要かな?犯罪しないで、自立して、ただ生きてるだけじゃだめ? 好きである自由もあるなら、なにも好きでない自由も欲しい。わがままかな。センセーが、オリジナリティ主義って言ってたの、まじそれなってなったよ。だって、私がこうして紡いでる言葉だってどうせ今までインプットしてきたことのランダム再生でしかないし、私って肉体になんか空っぽの私が宿ってるだけだし。でも、それでもいいし、それがいいし、何かを成したってなさなくたって、笑わなくたっていい。愛されなくてもいい。だって愛とかわかんない。なにもわかんないのに愛だけわかったような顔をするのはずるいとおもう。

  夏になるとそういういろんなことがかなしいのに、空が高くて、湯気が出るみたいに体が火照って、ちぐはぐになるからいやだ。部屋にこもって、スノードームの中にいるようなあの気分を早く味わいたい。夏がこなければずっとこのままで居られるのにね。しゃがみ込んでも気づいたら流されてるからこわい。

 

 

「もうやだ、死にたい、何もしたくない」

「何甘ったれたこと言ってんのよ!アンタまだ生きてるんでしょ!だったらしっかり生きて、それから死になさい!」

 

「いい?シンジ君。ここから先はもうあなた一人よ。すべて一人で決めなさい。誰の助けもなく」

「僕は……だめだ。だめなんですよ。人を傷つけてまで、殺してまでエヴァに乗るなんて、そんな資格ないんだ。僕は、エヴァに乗るしかないと思ってた。でもそんなのごまかしだ。なにも分かってない僕には、エヴァに乗る価値もない。僕には人の為に出来ることなんてなにもないんだ!」

「アスカに酷いことしたんだ。カヲル君も殺してしまったんだ。優しさなんかかけらもない、ずるくて臆病なだけだ。僕には人を傷つけることしかできないんだ。だったらなにもしない方がいい!!」

「同情なんかしないわよ。自分が傷つくのがいやだったら何もせずに死になさい」

「自分が嫌いなのね。だから人も傷つける。自分が傷つくより人を傷つけた方が心が痛いことを知ってるから……でも、どんな思いが待っていてもそれはあなたが自分一人で決めたことだわ。価値のあることなのよシンジ君。あなた自身のことなのよ。ごまかさずに、自分の出来ることを考え、償いは自分でやりなさい」

ミサトさんだって……他人のくせに!何も分かってないくせに!!」

「他人だからどうだってのよ!あんたこのまま辞めるつもり!?今、ここで何もしなかったら、あたし許さないからね!一生あんたを許さないからね!」

「今の自分が絶対じゃないわ。後で間違いに気づき、後悔する。あたしはその繰り返しだった。ぬか喜びと、自己嫌悪を重ねるだけ。でも、その度に前に進めた気がする」

「いい、シンジ君。もう一度エヴァに乗ってケリを付けなさい。エヴァに乗っていた自分に、何のためにここにきたのか、何のためにここにいるのか、今の自分の答えを見つけなさい」

「そして……ケリを付けたら、必ず戻ってくるのよ」

 

「約束よ………」

 

 

 

 

くらげになりたい

 

 

 

真っ暗闇に漂うくらげになりたい  あなたのように生ぬるい温度のなかで、それにも気づかずに  真ん中をつき刺されても、血を流すこともせず  くらげになりたい

 

綺麗なみんなの顔を見るたびに、自分の汚さを思う  みんながいとおしくなるたびに、自分が許せなくなる  みんなの傷に触れるたびに、自分のずるさに吐き気がする

 

くらげになりたい  だれも刺さない 傷つけない  なにも間違えない  ただそこに在る、くらげになりたい